FEATURE~美文字への道 vol.7 ~ 『文字を図形や積み木として考えてみる』

2018/11/01

あれほど暑かった夏が嘘のように涼しい季節となりました。本格的な秋到来ですね。

さて、7月下旬から始まった全8回のこのコラムもいよいよVol.7となり、終盤に差し掛かってきました。振り返ってみればこれまで文字の事、漢字の事、様々な話をしてきました。

そんなこのコラムを読んで、「字を久しぶりに書いてみようかな…。」「練習してみようかな…。」と、少しでも思ってくださる方がいらっしゃれば、とても嬉しく思います。

そもそも皆さんは、文字を練習するとき、どのように練習しているでしょうか?

まずは、ノートとペンを用意して、ご自身好みの手本を用意されることでしょう。そして手本を見ながら、ノートに繰り返し、繰り返し、練習していく。ノートいっぱいに、同じ字を繰り返し練習していくと、だんだんこれは字なのか、図形なのか…?わからなくなってしまう。そんなことはありませんか?

そんな方にお伝えしたい、私自身が文字を練習するときに気を付けていること。

それは、「手本の文字をじっくり観察して、デッサンするように、写し取る意識で練習する」ということです。文字をもはや文字としてではなく、図形として捉えている、といってもいいかもしれません。

「この線はどこから始まっているのか。」「どのくらいの角度で、どのくらいの長さで終わっているのか。」そんなことに集中しながら練習するようにしています。

よくお教室で生徒さんに文字練習を始めて頂くと、お手本をすぐ横に置いて練習しているにも関わらず、「自分の普段の字」を10回、20回とノートに書き続けている方がいらっしゃいます。

お手本を見ている「つもり」になってしまい、たくさん書いたことで練習した「つもり」になってしまっているのです。そんな方のなかには、こんなに時間を割いて練習しているのに、いつになってもうまく書けるようにならない!なんて思ってしまう方もいるかもしれません。

でも、これはある意味仕方がないことなのかもしれません。というのも、私達は小さい頃から「ひらがな」や「漢字」に慣れ親しんでいるので、それらを無意識に「読むもの」として捉えてしまっているのです。

もし仮に、手本の文字があまり親しんだことのない言語(ロシア語やアラビア語など)であれば、何度も何度も見返して、じっくり観察しながら書くと思います。「この部分はどこから始まっているのか。」

「この線はどのくらいの長さなのか。」ひらがなや漢字もこれらと同じようにじっくりと観察して練習できたなら、何も10回、20回と練習しなくとも上達は早いと思います。

「デッサンするように、写し取る意識で。」
ぜひ、日々の練習の中で実践してみてください。

 では、今回も美文字になるコツをお伝えしていこうと思います。
前回までは、左右の部品(「偏(へん)」と「旁(つくり)」)が隣り合って出来ている漢字のグループのお話でしたが、今回は上下で部品が重なって出来ている漢字のグループについて話していきたいと思います。

上下の部品で構成されている漢字のグループとしては、「冠(かんむり)」(もしくは頭(かしら)という部首で分けられる漢字が多いです。

例えば、「くさかんむり・うかんむり・あなかんむり・はつがしら」などといった部首の漢字です。日常生活の中でもよく使う字が多いと思います。

 私はいつもこの説明を生徒さんにする場合に、積み木を例に出して説明しています。皆さんも、ぜひここで少し想像してみて頂きたいのですが、目の前に積み木があるとします。

①下に小さい積み木、上に大きな積み木を重ねた場合と、
②下に大きな積み木、上に小さな積み木を重ねた場合。

どちらが安心して見ていられるでしょうか。

当たり前の事かもしれませんが、②のように、下が大きくどっしりしていた方が安定しているので、安心して見ていられますよね。これと同じことが文字でもいえると思うのです。安心して見ていられる=美文字につながると思っています。

ここで実際に、くさかんむりの「花」「草」と、はつがしらの「登」という字を書いてみました。

一方は下の部品を大きく、もう一方は上の部品を大きく書いてあります。

みなさんはどちらの方が美しい字と感じるでしょうか。

もちろん上下で部品が重なって出来ている漢字は、なにも「冠(=頭)」だけではありません。

「兄」「多」「炎」も例として挙げられると思います。

特に「多」「炎」のように、同じ形が上下で繰り返される場合は、下の部分が小さくなるとバランスが取りづらくなってしまうので、必ず大きく書くように気を付けてみてください。

こうして説明していくと、改めて自分が、文字を文字としては見ていないんだなということを感じます。

「文字を図形として捉えてみる」。

今までと少し違う視点で文字を見てみるのも、美文字につながる一歩かもしれません。


(斉藤美苑 東洋書道芸術学会師範 東洋書道芸術学会評議員)

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