FEATUREさくらいよしえ ~嫁と僕のおけいこライフvol.4 ~ 人生に必要なものは、勇気と想像力。それとトランポリンでジャンプ!<後編>

2018/09/04

嫁が「奈落の底」に転落していると知った僕は、彼女に自宅用トランポリンをプレゼントした。しかし、「体が(気分も)重くて飛べない」と言う。そんな彼女が“心を整え”て、夫婦で申し込んだ「トランポフィットネス」講座。行ってみると……?


<登場人物プロフィール>
僕=静岡県出身の38歳。実家はお茶農家。広告編集プロダクションに勤務。今一番欲しいのは可愛い柴犬。
嫁=大阪府出身の44歳。ライター。町歩きコラムや児童小説を執筆中。結婚生活6年目。

トランポフィットネス当日。
クリーンなスタジオで僕らを迎えたのは、超イケメンの爽やかコーチだった。
それこそサッカー選手みたいな細マッチョである。
嫁は案の定、日常生活ではまず出会うことのない人種を前にぽかんとしている。
僕は嫁をさておき、最前列のトランポリンを確保した。
じつはこちらは元サッカー少年。今も一応フットサルチームに入っている。トランポリンは初体験だが、根拠のない自信アリ。

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レッスンはまずトランポリンの上に座り、フレームをつかみながらのストレッチ。
超イケメンが言う。「トランポリンをすることによってふくらはぎが動きます。第二の心臓と言われるふくらはぎが、リンパの働きを促進しむくみ解消の効果があります。また5分間で、体重分のカロリーを消費すると言われています」ってまじか……! 嫁も目を見開いている。

いざ、トランポリンの上に立つ。超イケメンの掛け声と、リズミカルなBGM とともにジャンプスタート!
まずは肩幅に足を開きジャンプする「オープンスタイル」。そこから両足をそろえる「クローズ」。かかとをあげて飛ぶ「ヒールレイズ」。腰をひねりながら跳ねる「ツイスト」。
動きはシンプルだが結構、きつい。
「頭から串が一本通っているイメージをしてください。腰をぎゅうっとひねる。そう、皆さんいいですよ」
「体幹や鍛えたい場所を意識するだけで、効果は絶大です」
「はい、手と足が一緒になってますよー」
さっそくレクチャーされているのは嫁。嫁はいわゆるナンバ走り(日本古来の走り方。右手右足、左手左足が同時に出る)でステップを踏んでいた。
わが嫁ながら面白すぎる。たはははは!

しかし、僕は次第に笑っている場合ではなくなってきた。開始からわずか10分足らず。鉛の靴下を履いているかのように、ふくらはぎが重たい。
こ、こんなはずでは……。ブレイクタイムに、トランンポリンから床に降りると、富士山でも登ったかのように足の筋肉がビキビキした。
超イケメン曰く、「これこそが効いてる証拠」らしい。

一方、嫁は全身汗びっしょりになりながら、いよいよ野生が目覚めたのか、僕の存在など忘れたようにトランポリンと一体になっていた。
とくに、中盤のパンチ(ジャンプしながら左右の手でボクシングのジャブを打つ)に入った時だった。
「パンチ! もっと遠くに! も一度パンチ! 強く! はいパンチ! 打ったらぎゅっと引いて!」
超イケメンの声と音楽にノッた嫁は、完全に空間を自分のものにしていた。嫁の汗が床にぽたんぽたんと飛び散る。カッコなんかどうでもいい、人からどう見られたってかまうもんか、私は今無我夢中! そんなオーラを放っていた。それは一周まわって神々しくさえあった。

後半、僕は完全にスタミナ切れ。いまだかつて使ったことのない筋肉が「オイ、なにごとだ」と騒いでいる。その点、ふだんから運動らしきものとは無縁の嫁のほうが、無邪気に没頭できていることが意外な発見でもあった。
「最後は高くジャンプします。せーの、ワン・ツー・ジャンプ!」
超イケメンの掛け声に合わせて飛び、宙で膝を抱えるポーズ。
「もう1回、ワンツージャンプ!」
体がかたい僕は足を抱えることが難しい。
「ラスト! 自分は飛べる、そう脳に信号を送りましょう! ワン・ツー・ジャーンプ!」
嫁、ものすごく飛んでるんですけど〜! 
「みんな、嬉しいことがあるとヤッター! って思わず飛び跳ねちゃうでしょ。その逆です。ジャンプすれば、嬉しくなる」
超イケメンは、さりげなく深いことを言った。
レッスンが終わった。
汗びっしょり、ゆでだこのように顔を赤くした嫁がかすれた声でつぶやく。
「私、飛べた……」
「そうですよ、飛べるんですよ。明日からお友達に自慢してください」
そこだけ聞くとおかしなやりとりだが、「これまで眠っていた可能性を呼び覚ますジャンプ」と言われると確かにそんな気がした。
「家でも毎日続けましょう。ただしがんばらないように、がんばる。これが大事です。絶対に、がんばってはいけません」
これはメンズの僕が聞いても、心に響くやさしい言葉であった。
ちなみに、45分(準備体操や休憩を含めて)のレッスンで、400〜500キロカロリーも消費したことになるらしい。すごい運動量だ。

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それから嫁は、少し変わった。
髪の毛を短く切った。落ち込むなら「3秒ルール」。
そして、イケメンコーチによるウエブ講座に入会、初日は、「今日はコーチと5分飛んだ」、次の日は10分、翌々日は15分、やがて20分続けると、いくらでも飛び続けられるランナーズハイ的な快感を味わえる境地にまで至ったと言う。

僕が会社で「棚おろし」をして家に帰ると、嫁がびょーんびょーんと跳ねている。それも満面の笑みを浮かべながら。
「楽しいから笑うんじゃないの。アハッ! 笑うから楽しくなるのよアハハハ!」
ややクレイジーな場面だが、ハードなトレーニング中、あえて笑顔をつくると呼吸が楽になるということは僕もサッカー少年時代に教わった。
これ以上ムリ、という時こそ笑う。酸素がめぐる。あともう少し出来る、と思える。
それはまさに逆転の発想だった。

やがて、トランポリンの上でジャブを繰り出す嫁の手のひらには、長〜い生命線がマジックで描かれるようになった。
「これは手相占いで見つけたラッキーまじないだ。良い手相は自分で作る。運は自分でつかむのだ。これもまた、逆転の魔法だ」
いろいろおかしいけれど、嫁が明るいと家は明るい。
とりあえず、トランポが我が家にやってきて大正解だったかも。
そうだ、たな卸しに疲れたら、僕も飛んでみるとしよう。<完>

◆さくらいよしえ(ライター)
1973年大阪府生まれ。日本大学芸術学部卒。
月刊『散歩の達人』や「さくらいよしえのきょうもせんべろ」(スポーツニッポン)、「ニッポン、1000円紀行」(宅ふぁいる便)など連載多数。著書に『にんげんラブラブ交叉点』『愛される酔っ払いになるための99 の方法 読みキャベ』(交通新聞社)、『東京千円で酔える店』『東京せんべろ食堂』『東京千円で酔えるBAR』(メディアファクトリー)の他、絵本「ゆでたまごでんしゃ」(交通新聞社)、児童小説「りばーさいど ペヤングばばあ」(小学館)など児童向け書籍も執筆。

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