FEATURE蕎麦打ち名人 永山寛康 ~蕎麦あれこれ~節句蕎麦『雛蕎麦』

2018/03/02

雛祭りの時期になりました。
菱餅、雛あられ、はまぐりの吸い物、ちらし寿司、雛祭りに関わる食べ物があります。中でも菱餅は雛祭りを代表する普段の生活にはない独特のものです。
この三色の餅の色にはそれぞれに意味があり、それを供えることが春の訪れを象徴しているのです。
この伝統行事の雛祭りには、蕎麦も登場します。
菱餅と同様にその色に因んだ変わり蕎麦を供えます。 これが節句蕎麦の「雛蕎麦」です。
雛人形を仕舞う日に、供えるのが「色物」と呼ばれる変わり蕎麦で変わり蕎麦の伝統は、この節句蕎麦と大きく関わっているのです。

ほんの僅かですけれど、ようやく春の気配が感じられる季節になって来ました。
先日、所用で房総半島を訪ねる機会があった折、所々の菜の花畑では一面に可愛い黄色の花がすっかり咲き揃って、しっかりと大地に春を感じさてもらいました。
そしてもう近所の花屋さんの店頭には、桃の花のピンクと黄色の菜の花に新緑の茎。あぁ、春がもう直ぐそこまで来ているのだなぁと、少しウキウキする気持ちが嬉しくなります。

女の子の健やかな成長を願う雛祭り。古くからの伝統。
それぞれの家庭では、普段は仕舞われているお雛様を出しながら、また今年もお会い出来ましたと笑顔でご挨拶をしながら飾りつけるのではないでしょうか。
いつかは家を離れてしまうであろう娘の事に思いをはせる親の気持ちと、子供の幸せを煌びやかで華燐なお雛様に託する思い、その両方が入り混りしっとりした優しい憂いの心を象徴する習慣には、高貴な人や庶民を問わず昔からの日本の心根を感じます。

さて、菱餅の三つの色についてお話ししましょう。
菱餅の色は江戸時代までは、緑と白の二色だったそうです。明治に入って三色になったと言われていますが、江戸時代も後期の雛人形の飾り道具には、三色の菱餅が見受けられます。

緑は、大地の草木・若草の芽吹き、命と健康
白は、残雪、清純
赤は、厄払い、桃の花を意味します。

節句蕎麦「雛蕎麦」を供える日は三月三日では無く、雛人形を仕舞う日とされる三月四日。「雛納め」に一日だけ供える蕎麦です。

この日にお雛様を仕舞わないと、婚期が遅れるとの言い伝えがあるそうです。
そしてこの時に、打たれていたのが「三色蕎麦」や「五色蕎麦」で、当時としては大変に贅沢な品ですから、お武家様などからのご注文で作られていた事と思われます。また、この様な要望が無ければ「色物」の変わり蕎麦には、発展の余地も無かったはずで「雛蕎麦」は後々の変わり蕎麦や、はたまた日本の蕎麦切りの食と技術の文化全体に於いても、とても重要な役割を担っていてくれた訳です。
その際に打つ蕎麦は、さらしなの白に、蓬(よもぎ)か抹茶、色粉を溶くか桜海老を擦り込んだ赤の三色が定番。五色ならば芥子と柑橘系で作りましょうか。

今年は妻が一人でお雛様を飾りました。
家の猫が人形いじめをするので、廊下のニッチにお内裏様とお雛様だけの簡易バージョンです。
一人暮らしをしている娘に「お雛様飾った」とメールをしたら「今年あたり結婚するから、納め損ねると嫁に行き遅れるので、家に帰って一緒に仕舞う」との返信。四日前の事、むぅ〜オヤジとしては心情定かで無し。

いつもは打たないけれど今年は、雛納めの蕎麦打ちますよ、決めました、ゆーくりと六月四日に。

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