FEATURE蕎麦打ち名人 永山寛康 ~蕎麦あれこれ~『薄い派?濃ゆい派?あなたはどちら‥「蕎麦湯の話」』

2018/05/02

先ずは、真面目なお話からはじめましょう。
蕎麦を食べた終えた頃合いに出て来る「蕎麦湯」。
気の利いた店は、丁度良いタイミングで蕎麦湯を出すもんです。

皆さんも、蕎麦店で冷たい蕎麦を食べられた後にお汁に注いで飲んでいるでしょう。良く出来た汁ですと、カツオ節の風味がスーと延びて本当に美味しい物です。あぁ、蕎麦を食べたなぁと満足度がぐっと上がりますよね。 そして江戸の昔から、この蕎麦湯を飲む習慣というか味わい方は、脈々と現在まで続いているのです。

それでは、なぜゆえに蕎麦の茹で汁を飲むんでしょうか? その答えは、蕎麦を食べ終わった後の残った汁がもったいないし、でもそのままじゃ辛いから薄めるため! そぉーじゃない。それも外れてはいないけれど、やはり、そぉーじゃありませんよ。

実は、蕎麦湯の中には蕎麦の栄養素と旨み成分がたっぷり溶け出しているのです。

穀物としてのソバの栄養は主に澱粉質です。
このソバ一粒全部を粉にした場合に含まれるたんぱく質はおよそ13%と言われます。このたんぱく質のほぼ半分が水溶性たんぱく質で、読んで字の如しで水に溶けやすい性質があります。当然の如くに蕎麦の茹釜のお湯の中には多くのたんぱく質が溶け出します。旨味が溶け出しているということです
ちなみにこの水に溶けやすい性質のたんぱく質を上手に利用して打つ蕎麦が十割蕎麦です。

そして、もう一つ蕎麦の茹で湯に溶け出す栄養成分があります。

それはビタミン類です。蕎麦といえばビタミンB1とB2が多く含まれている事は、ご存知の方も多いと思いますが、こちらも水に溶けやすい性質ですですから、釜の中はもう捨てるのがもったい無いくらいの栄養が含まれている訳なんです。
江戸の人々は栄養学的な事柄よりも、味覚的な面からまた、体が求める蕎麦湯の効果を自然に理解していたのでしょう。

蕎麦店の昼の営業が終わった後の釜のお湯は、ちょっとトロッとしていますが、これは溶け出したたんぱく質だけではなく、蕎麦を打つ時に振り施す打粉(こちらも蕎麦粉ですが主に澱粉質です)が生蕎麦に付いていて、それも溶け出しています。蕎麦湯が濃くなると白濁しているのはこの為です。ところが、このトロッとした釜の茹で湯は、ちょっとばかり都合の悪いところがあるんです。

お湯の沸点が下がってしまう為に、蕎麦に熱が伝わり難くなり蕎麦が美味しく茹でられなくなってしまうのです。 営業中は、頃合いを見計らって釜の湯を少しずつ替えたり、水を足したりしてお湯が濁らないように気を使いながら茹でます。これが又、釜前(蕎麦を茹でる人)の腕の見せ所でもあるのですけれども、何かもったいない様な気も致します。

店での口開けの蕎麦は美味しいけれど、蕎麦湯は薄い。そこで蕎麦湯に水溶きした打粉や更科粉を少し加える事があります。これが次第に濃くなっていきドロッとした蕎麦湯を作るようになって来ました。これが「蕎麦のポータージュ」。 以前、私が関わった店で濃い蕎麦湯と薄い蕎麦湯を両方用意してお出ししていたのですが、九割のお客様が濃い方が好きと仰っていられました。

でもね、私は汁の濃さを蕎麦湯で何回も割って飲むので薄いほうが好き。 もう6、7年くらい前の話になるのですが、ピエール瀧さんと玉袋筋太郎さんと私が一緒に老舗の蕎麦屋を巡り歩くテレビ番組がありました。実はこの番組、老舗の蕎麦屋の蕎麦を食べ歩くのではなく、蕎麦湯を飲み歩くという趣旨の番組。

「なんじゃい!それっ」と言われそうなお馬鹿な企画。蕎麦は食べないお約束でした。絵的には店毎にサラッとした薄い物や重湯のような濃い物等々ありまして、おもしろくなりましたが、そのうちに蕎麦湯を飲んでるだけじゃ物足りなくなって来て、三人で蕎麦湯割りの焼酎にして映像的にはわからないように何杯も何杯も。各店舗でそんな風でしたから、収録後は酩酊状態。酷いもんでした。

だから、私は焼酎の濃さを蕎麦湯で何回も割らないから濃いほうが好き。

家で焼酎の蕎麦湯を楽しみたいならば、蕎麦粉を水で溶いてお湯で薄めれば簡単に作れます。もう一つ簡単な蕎麦湯の作り方がありますよ。お猪口に蕎麦粉を茶さじに軽く一杯入れて、お湯を注ぎ入れると蕎麦粉がプクッと浮いて来ます。この浮いた蕎麦粉を口に含んで口中で潰す様にして楽しむ。ただ、それだけ。これが「いぼ湯」、風情がある蕎麦の味わい方の一つです。

ここは、杉並高円寺のとある古びた一軒の蕎麦屋。*1
十五、六才とおぼしき少年が二人、今まさに二百二十円也のもり蕎麦を食べ終えようとするところ。(パン)やや年長に見える片方の少年がおもむろに「蕎麦湯くらさぁ〜い」と店の奥に雄叫びをあげる。(パパン・パン)しばし待つこと二十秒あまり。「湯桶(ゆとう)です」と四角形で黒塗り、横角に注ぎ口らしき物が付く奇妙なる形の器が運ばれてまいりました。件(くだん)の少年、おもむろに汁の残った猪口に注ぎ入れたるは、何やら得体の知れないトロッとした液体。(パン)これを飲み干して至極満悦の笑みを浮かべております。(パン)
さて、この光景を不審げに見ている傍(かたわら)のそれは可愛い紅顔の美少年。 この紅顔の美少年が家に戻ってその母に聞き及びしが「蕎麦湯って何?」。 語るも昔、今から四十五、六年前の話で御座います。(パパン・パン・パン) 蕎麦湯を所望した件(くだん)の少年、後に杉並区長!に(バン・パパン)は、到底なれず一杉並小区民として余生を謳歌中、そして傍らの紅顔の美少年は、(パン)この時より人の話に横から口を出す湯桶の悪癖がしっかり付いた(パン)何を隠そう、今こうして皆々様に蕎麦湯話をお聞かせしている私で御座います。
*1 注釈 この話はノンフィクションです

そんなこたぁ、どうでも良いけどさ、
蕎麦湯、薄いのと濃ゆいのどちらがお好きですか?(パン・パパン)

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